学芸員が選ぶ隠れた名作

中村芳中《四季草花図扇面貼交屏風》江戸時代(19世紀初頭) 紙本著色 石橋財団ブリヂストン美術館

中村芳中《四季草花図扇面貼交屏風》江戸時代(19世紀初頭) 紙本著色 石橋財団ブリヂストン美術館
ンと鼻の奥を刺すような冷たい空気の中にも、芳しい香りが、かすかに感じられる頃となりました。数ある花の中でも、寒い中先駆けて花開く梅は、古より歌に詠まれ、えがかれてきた題材です。
蔓のような伸びやかな枝と、丸くかたどられた花のようすが、厳寒の中に凛と咲く梅のイメージとは異なり、かわいらしい柔和な雰囲気をもたらしています。画面左側には、この絵の作者の名が記されているのですが、ふにゃふにゃ、ころん。画面を一層、柔和な世界に仕立てています。
えがいたのは、中村芳中(なかむら・ほうちゅう 不明-1819)。江戸時代の半ばに、大坂(大阪)を中心に活動した絵師です。

戸?絵師?
今回ご紹介する作品をご覧になって、少し違和感を覚えた方もいるのではないでしょうか。実は、石橋財団コレクションには、西洋の近代絵画や彫刻、日本近代洋画のほかに、日本や中国の書画、陶磁器、オリエントのガラスといった作品があります。これまでは福岡県久留米市にある石橋美術館で公開してきたのですが、2016年の10月にひと所に集約し、これからはブリヂストン美術館で公開していくこととなりました。とはいえ、新しい建物ができるまでもう少し時間がかかりますし、これまで東京では1度お披露目したきりなので、隠れた名作ということで、ご紹介。
なお、そのほかの作品も、コレクションページに載せていますので、そちらもぜひご覧ください。
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は、再び作品に目を向けてみましょう。
この絵には仲間がいて、タンポポやユリ、リンドウ、ヤブカンゾウといった花々をえがいた扇面とともに、二曲一双の屏風に貼られています(fig.1)。ウメは右手一番上、そこから左に向かって春、夏、秋、冬と季節が展開されています。よく見ると、大きな扇面と小さな扇面の2種があって、10面ずつ。それぞれ別に伝来していたものが、石橋財団コレクションに入る直前に、今の屏風に仕立てられたのでした。いずれの植物も、ウメと同様、花は薄墨の太い輪郭線でかたどられ、その輪郭線を避けて彩色をほどこす彫塗りという技法が用いられています。枝や茎、葉は、輪郭線を引かず、墨や白緑、金泥のにじみを活かしたたらし込みという技法で表されています。ゆるやかな弧をえがき、地から天へと広がっていく画面の形状に呼応するかのように、枝葉を伸ばす草花。生き生きとしているようにも、よれよれしているようにも取れる不思議な生命力の表現は、芳中ならでは、ユニークな絵画世界を作り上げています。
fig.1
中村芳中《四季草花図扇面貼交屏風》江戸時代(19世紀初頭)紙本著色