アンリ・マティス特集

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《青い胴着の女》 1935年 油彩/カンヴァス 46.0×33.0cm

《青い胴着の女》 1935年 油彩/カンヴァス 46.0×33.0cm

赤い肘掛け椅子に腰掛けるグラマラスな若い女性。胸元を大胆にあけ、二の腕をあらわにする青地に黒の縞模様の衣装を着て、脚には真っ赤なストッキングをはいている。モデルはロシア人のリディア・デレクトロスカヤ。彼女は1934年からマティスのモデルをつとめ、後には画家の身の回りの世話もするようになった。1936年に、画家の硲伊之助は、マティスの画室を訪ねてこの作品を実見し、二科展への出品を依頼したという。画架に快諾されて本作は、同年の二科秋季展で公開されている。

《ソファーの踊り子》 1927年 リトグラフ・紙 29.0×46.5cm

《ソファーの踊り子》 1927年 リトグラフ・紙 29.0×46.5cm

マティスは、生涯に800点以上の版画を制作している。20世紀初頭に銅版画を試みて以降、晩年の《ジャズ》にいたるまで、様々な技法による版画制作は、創作活動のひとつの柱であり続けた。晩年の《ジャズ》のような華やかな色彩の版画作品、同様にカラフルな油彩作品とは対照的に、マティスの版画作品の多くはモノクロームで描かれたものが多い。ところが、ソファーに身を沈めて微睡む女性像は、われわれにマティスの鮮やかな色彩を喚起する。

《オダリスク》 1926年 油彩/カンヴァス 55.5×46.8cm

《オダリスク》 1926年 油彩/カンヴァス 55.5×46.8cm

1925年から26年にかけての冬のニースで制作した作品。この時期に集中して描かれた一連のオダリスクの作品のひとつである。背景の装飾的な壁が垂直なのに対し、椅子と女の身体は、対角線上に置かれている。肉感的な人物像であるが、全体として装飾的な画面構成は、対象の再現的な感覚を曖昧にしている。《両手をあげたオダリスク》(1921年)にも描かれているように、モデルが大胆に両腕をあげて頭上で組む姿勢を、この時期画家は好んで描いた。

《コリウール》 1905年 油彩/厚紙 24.5×32.4cm

《コリウール》 1905年 油彩/厚紙 24.5×32.4cm

コリウールはフランス、ラングドック=ルシヨン地域圏ピレネー=ゾリアンタル県にある町。スペイン国境からわずか20Kmほどの距離にあり、地中海に面した風光明媚な場所で、かつては漁村として栄えていた。マティスは1905年の夏、アンドレ・ドランとともにここに滞在し、はじめて純粋にフォーヴと言える一群の作品を制作した。本作は厚紙に描かれた小品であるが、南仏の自然を前にして、奔放な筆づかいで、大胆な色遣いが印象的な作品となっている。

《画室の裸婦》 1899年 油彩/紙 66.3×50.5cm

《画室の裸婦》 1899年 油彩/紙 66.3×50.5cm

部屋の中央に据えられたステージの上に堂々たる体軀の裸婦が立ち、その後景には、彼女を描写する画家の姿が垣間見える。裸婦の暖色と、背景の緑は、補色の関係にあり、モデルの存在感を際立たせている。ここでマティスが行った点描風の筆触は、新印象主義の影響下にあるが、一方でフォーヴへと向かう強烈な色彩と賦彩を試みる画家の企図がうかがえる。同胞マルケは、この時マティスと画架を並べていたらしく、《フォーヴの裸婦》(ボルドー美術館)を制作している。

《樹間の憩い》 1923年 油彩/カンヴァス 59.0×72.0cm 寄託作品

《樹間の憩い》 1923年 油彩/カンヴァス 59.0×72.0cm 寄託作品

マティスは、1920年代よりニースを制作の活動拠点とした。ここでは南仏の明るい光を感受し、華やかで開放的な空間の創造を試みるようになった。緑の木立の中の赤茶けた小径が、左下より曲線を描きながら画面上部へと続き、奥行きを強調している。これに沿うように置かれた籐の寝椅子の上には、花の装飾の付いた帽子をかぶった女性が腕を組んで座っている。膝には書物を置き、自然の中で憩う様子だ。この頃より頻繁に描かれることとなる、自然の中に横たわる女性像の典型となっている。

《横たわる裸婦》 1919年 油彩/カンヴァスボード 32.9×40.8cm

《横たわる裸婦》 1919年 油彩/カンヴァスボード 32.9×40.8cm

マティスにとって、女性は生涯にわたって重要なモティーフであり続けたが、西洋絵画において伝統的な主題である「横たわる裸婦」は、とりわけその中心を成すものであった。豪華な室内の中心に置かれた寝椅子に、本来とは別の方向を頭にして、しどけない姿で横たわる長髪の女が描かれている。彼女の身体は、周りの色彩と調和をなし空間を構成する要素となっているが、一方で輪郭線とハイライトを取りながら肉感的に描かれており、画家の身体表現に対する関心を如実にあらわしている。

《ルー川のほとり》 1925年 油彩/カンヴァス 38.3×47.0cm

《ルー川のほとり》 1925年 油彩/カンヴァス 38.3×47.0cm

ルー川は、南仏ニースの西十数キロ、ラ・コル=シュル=ルーの東に位置し、海岸の街ヴィルヌーヴ・ルーベを経て地中海に注ぐ河川。その川沿いは緑豊かな景観で知られ、現在では「ル・ルー河岸県立公園」となり、自然保護地区として公園が整備されている。多くの画家がその風景を画題とし、1920年代にニースを本拠地としていたマティスもここに魅了されたひとりだった。この時期、画家は、フォーヴの表現主義的様式を離れ、対象に忠実に表現することを試みつつ、色面が点在する画面の構築を目指した。

《石膏のある静物》 1927年 油彩/カンヴァス 52.0×64.0cm

《石膏のある静物》 1927年 油彩/カンヴァス 52.0×64.0cm

マティスの絵画は、題材として人物像、ないしは窓のある室内を描いたものが多いが、静物画もまた、画家が取り組んだ重要な主題で有り続けた。マティスはその画業の初期、セザンヌの《3人の水浴の女》(1879-82年、プティ・パレ美術館)を自ら画商のヴォラールより購入したことにより知られているように、巨匠に関心を持っていた。本作は、セザンヌの石膏のある静物画との関連を感じさせる。一方で、画面は南仏時代以降の鮮やかな装飾的色彩で彩られており、独自の展開を模索する様子がうかがえる。

《縞ジャケット》 1914年 油彩/カンヴァス 123.6×68.4cm

《縞ジャケット》 1914年 油彩/カンヴァス 123.6×68.4cm

青が印象的なストライプのジャケットを羽織り、首に瀟洒な首飾り、頭に花飾りをつけた帽子をかぶっているのは、画家の愛娘マルグリット。これが制作された頃、マティスは第1次大戦の勃発を契機にパリを離れ、南仏コリウールに滞在していた。ここでフォーヴの同胞マルケと再会するとともに、総合的キュビスムの時代にあったグリスに出会っている。この頃マティスは、仲間たちに触発されつつ様々な絵画表現の実験を試みた。本作では、単純な線描と平面的な色面による画面構成に対する関心が示されている。

《両腕をあげたオダリスク》 1921年 油彩/カンヴァスボード 45.9×38.2cm

《両腕をあげたオダリスク》 1921年 油彩/カンヴァスボード 45.9×38.2cm

1920年代のマティスのニース時代には、優美で官能的な女性像も多く描かれた。オダリスクとは、そもそもはオスマン帝国のスルタンの後宮の女奴隷を意味する。18世紀末以降西洋の東方趣味が興隆する中で、特に新しい女性像の主たる題材として成立した。新古典主義のアングル、ロマン主義のドラクロワ、印象派のルノワールらの例がある。マティスもこの主題を好み、繰り返し描いた。装飾的で平面的な背景と、肉感的な裸婦が、ひとつの空間の中で破綻することなく融合している。

《リュリュと犬》 1931年 インク/紙 55.4×44.8cm

《リュリュと犬》 1931年 インク/紙 55.4×44.8cm

マティスは卓越した色彩家であると同時に、優れた素描家でもあった。マティスの素描は、絵画を準備するものとして描かれた場合もあれば、それ自体が目的となってひとつの完成作品となった作品も多数ある。対象となるモティーフも多岐にわたるが、主要なのは人物だ。ここでは浴室で愛犬とともにいる裸体の女性が、繊細な線で艶めかしく描かれている。本作は1951年に東京で開催された「マチス展」の際に将来した作品である。本展は硲伊之助の要請を受けて、マティス自身が協力している。