アンリ・マティス特集

1947年に刊行されたマティスの挿絵本『ジャズ』には、20点の切り紙絵のカラー印刷が収録される。
マティスは色の再現性にこだわり、編集者で画商のテリアードとともに、さまざまな印刷技法を試した。
ここにおさめられた作品は、サーカス、民話、旅の思い出などを題材としている。
マティスはこの本の題名を当初は「サーカス」としていたが、その後「ジャズ」に変更した。
「ジャズ」について、テリアードは「切り紙絵は、ジャズの精神と一致します。
音楽はマティスに欠かせないものでした。切り紙はジャズ音楽に似ていたのです。」と説明している。

マティスのイラストをクリックすると作品解説がご覧いただけます。

道化師

道化師

サーカスに関連する画題である。右側の黒いカーテンから道化師が登場したところ。サーカスの呼び込みのために、道化師は、これから小屋の前で余興をみせるのだろう。挿絵本の始まりにふさわしい場面となっている。

道化師

馬、曲馬師、道化師

馬、曲馬師、道化師

サーカスの一場面があらわされている。白と黒のスカートをはいた曲馬師が馬にまたがり、そのそばに、緑と黒と黄色の衣装を身につけた道化師が立つ。画面を横切るように配置された黄色の曲線は、馬をうつムチである。

馬、曲馬師、道化師

サーカス

サーカス

右下に赤いカーペットが敷かれ、その上に黄色い綱が渡される。綱渡りする人の黒いシルエットが目を引く。「サーカス」という文字が見開きの両面に書かれていることから、当初は表紙として制作されたものと考えられる。

サーカス

ロワイヤル氏

ロワイヤル氏

特徴的な横顔をみせるのは、19世紀のサーカス団「シルク・ナポレオン」の曲馬団長ジョゼフ=レオポル・ロワイヤル氏(1835-89)。背景の青色はロワイヤル氏の衣装をあらわしている。二列に並ぶ黄色の丸は上着の金ボタンである。

ロワイヤル氏

Le Papier decoupé me permet Dessiner dans la couleur

切り紙絵では色彩の中でデッサンすることができる。

白象の悪夢

白象の悪夢

サーカスに連れてこられた白い象が、器用に玉乗りの曲芸をしている。象のまわりを取り囲む黒いかたちは、故郷のジャングルの風景。赤色の鋭くとがった形態が象に刺さり、象の苦しみ、あるいは、悪夢を想起させる。

白象の悪夢

狼

1944年のテリアード宛の手紙で、マティスが「おまえを食べやすいように」と題していたことから、この作品は民話の『赤ずきん』にもとづくと考えられる。ここでは、狼が口を開けて噛みつこうとする様子が描かれている。

狼

ハート

ハート

『ジャズ』には、サーカスに基づくもの以外にも、抽象的な題材が含まれる。この作品では、少々いびつな赤色のハート型が使われている。次につづく「イカルス」の胸の赤くて丸い心臓につながるテーマとなっている。

ハート

ピエロの葬式

ピエロの葬式

花吹雪の舞うなか葬礼の馬車が行く。道は落ち葉に覆われている。ピエロの遺体は赤十字で表現されている。この作品の原画は1943年に制作された。当初は「四輪馬車」と題されており、1944年に「ピエロの葬式」に変更された。

ピエロの葬式

ナイフ投げの男

ナイフ投げの男

サーカスでおなじみのナイフ投げ。壁を背にして立つ女性にむかってナイフを投げる、緊張した場面である。左側にナイフを投げる芸人が立ち、右側に的となる女性が両腕をあげている。ナイフは女性の左脇を狙っている。

ナイフ投げの男

イカルス

イカルス

オウィディウスの『変身物語』にもとづく。工匠ダイダロスは鳥の羽を蝋でかためた翼をつくり、息子イカルスとともに空に旅立つ。父の戒めを忘れて天高く飛んだイカルスは、太陽に翼の蝋を溶かされ、海に落ちてしまう。

イカルス

Improvisations chromatiques et rythmes

色彩と即興のリズム

コドマ兄弟

コドマ兄弟

コドマ兄弟は20世紀初頭の有名な空中ブランコ乗り。青と白の空中ブランコからコドマ兄弟がジャンプするところである。コドマ兄弟は黄色であらわされている。下には、万が一に備えての安全ネットが置かれている。

コドマ兄弟

形体

形体

1944年のテリアード宛ての手紙で、マティスは、「私がつくったのは、造形的ポーズ、二つの美しいトルソである。裏面にはほぼ白い灰色が空色の上にあり、表面には空色のトルソがほぼ白い灰色の地の上にある」と述べている。

形体

水槽を泳ぐ女

水槽を泳ぐ女

舞台の上に置かれた水槽のなかで、女性の演技者が泳いでいる。これは、パリのミュージックホールでしばしば演じられる出し物だった。右下には、この出し物をみつめる観客の頭部が、赤色の大きな丸であらわされている。

水槽を泳ぐ女

潟

1930年のタヒチ旅行に結びつくイメージである。有機的なかたちが具体的にどのような植物あるいは動物をあらわしているかは定かではないが、これらの水生生物は、枠組みからはみ出そうな勢いを持ちつつ、たゆたっている。

潟

カウボーイ

カウボーイ

馬にまたがったカウボーイが投げ縄で女性をとらえている様子が、黒いシルエットであらわされている。一見サーカスとは無関係に思えるが、当時のサーカスには、カウボーイと馬とのかけあいで観客の笑いを取る演目があった。

カウボーイ

l'éternel conflit du dessin et de la couleur

デッサンと色彩の永遠の葛藤

潟

1930年のタヒチ旅行に結びつくイメージである。有機的なかたちが具体的にどのような植物あるいは動物をあらわしているかは定かではないが、これらの水生生物は、枠組みからはみ出そうな勢いを持ちつつ、たゆたっている。

潟

運命

運命

右側の青い四角形のなかの白いかたちは、不安に怯えるように抱き合うカップルをあらわし、左側の黒と紫の抽象的なかたちは、彼らを脅かす運命をあらわしている。大きさという点でも運命はその存在感を誇示している。

運命

潟

1930年のタヒチ旅行に結びつくイメージである。有機的なかたちが具体的にどのような植物あるいは動物をあらわしているかは定かではないが、これらの水生生物は、枠組みからはみ出そうな勢いを持ちつつ、たゆたっている。

潟

剣を呑み込む男

剣を呑み込む男

大きく首をそらして、三本の剣を呑み込むサーカスの芸人が描かれている。「ロワイヤル氏」も当初は剣を呑み込む男として制作されており、天地を逆さにすれば、口を大きく開けた顔が姿をあらわすことが知られている。

剣を呑み込む男

橇

『ジャズ』は1941年にテリアードが発案し、1943年にマティスが「道化師」と「橇(そり)」の二枚の原画を制作したことから始まった。この作品では、トボガンと呼ばれる舵のない橇で斜面を滑り降り、転がる人物を描いている。

橇

《ジャズ》 1947年 ステンシル/紙 42.2×65.5cm

Le noir est une couleur en soi

黒は一つの色彩だ

マティスによる『ジャズ』のイメージ目録
マティスによる『ジャズ』のイメージ目録